M&Aに価格相場はある?そもそも価格はどうやって決まる?

売り手側も、買い手側も、M&Aにおいて最も気になるもの。それは、価格(譲渡価格/買収価格)ではないでしょうか?
売り手側であれば、「自社はいくらくらいで売れるんだろう?」と考えているでしょうし、買い手側であれば、「いくらくらいで会社を買えるんだろう?」と考えているはずです。
では、M&Aの価格は、どのように決まるのでしょうか? この記事では、M&Aにおいて誰もが気になる価格の決め方について解説していきます。



譲渡価格にしろ売却価格にしろ、自身でどれくらいになるのかを計算するのは難しいものです。一度、専門家に相談した方が良いです。
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M&Aの価格相場はある?

結論から申し上げると、中小企業のM&Aにおいて、価格の基準となる相場というものは存在しません。
M&Aの価格は、各社が様々な要素を考慮して、独自に算出しているのです。ここでは、考慮される要素の例をいくつかピックアップしてご紹介します。

要素①純資産

最もわかりやすいのが、純資産。財務諸表を見れば、誰でも比較的簡単に算出できるため、価格を決める際の基準(根拠)にしやすい要素です。
純資産を基準に価格を算出する場合、貸借対照表の簿価で計算することもあれば、簿価を時価に修正した金額で計算することもあります。
ちなみに、時価に修正する際には、中小企業のほとんどは税務会計ベースで決算書を作成しているため、企業会計ベースへの修正や、その他にも含み損益の反映、税効果の検討などが必要となります。

要素②M&A後に見込まれる利益

M&Aでは、買い手側は、買収した事業によって一定の利益を得ることができるという前提で、買収後に見込まれる利益を考慮して、価格を算出する場合が多いです。

営業権(のれん代)という言葉を耳にしたことはありませんか?営業権(のれん代)とは、簡単に言うと、過去の営業利益をもとに算出した、譲渡・売却後に見込まれる利益のこと。
中小企業の場合は、過去3年間の営業利益の平均値をもとに、3~5年分の営業権(のれん代)を上乗せするのが一般的です。
営業権(のれん代)が上乗せされるのは、原則黒字企業のみですが、赤字企業で絶対に営業権(のれん代)が上乗せされないかというと、そうも言い切れません。
突出した技術力やブランド力がある企業、希少性の高い事業であれば、現在赤字でも、多額の営業権(のれん代)が上乗せされることもあります。

また、営業権(のれん代)は、過去の実績をベースにした見込み利益ですが、将来的に期待できる利益を考慮して価格を算出することもあります。

要素③市場価値

売り手側の企業の市場価値を考慮して、価格を算出する場合もあります。
市場価値は、同一業種・同一業界内で上場している企業の株式相場や、経営指標をベースに算出します。

要素④無形資産

取引先や従業員、技術、ノウハウ、市場シェアといった、M&Aによって引き継げる無形資産を考慮して、価格を算出する場合もあります。
無形資産に対する価値は、買い手側の需要によって全く異なりますが、競合他社に負けない何らかの資産がある場合は、価格が高額になる可能性が高いです。

価格の算出方法

M&Aにおける価格の算出には、大きく3つのアプローチ方法があります。
ここでは、その3つのアプローチ方法について、詳しく解説しています。
なお、中小企業のM&Aにおける一般的で、かつ、数字を使った具体的な計算方法については、別の記事で解説しているので、こちらをご覧ください。

簿価純資産法や時価純資産法による"コストアプローチ"

<メリット>

  1. ①純資産を反映させることで評価の平等性を担保できる
  2. ②比較的簡単に計算することができる

<デメリット>

  1. ①会社の将来的な収益を考慮していない
  2. ②価格変動を考慮していない

コストアプローチは、要素①「純資産」を基準に価格を算出する手法で、ストックアプローチ、ネットアセットアプローチとも呼ばれます。
コストアプローチで価格を算出する場合に、最も使われる計算方法が「時価純資産法」です。
時価純資産法は、貸借対照表の簿価を時価に修正した上で、総資産から負債合計を差し引いて算定する方法です。

時価純資産法で求めた価格には、将来的な価値が一切含まれておらず、売り手側がなかなか納得しにくいという面もあるため、時価純資産法で算出された金額に、要素②「M&A後に見込まれる利益」である営業権(のれん代)を上乗せして、価格を算定する場合もあります。

時価純資産法(のれん代込み)の計算式は、以下の通り。

  • 価格=時価総資産-時価総負債+(過去3年間の営業利益の平均×3年分)

中小企業の場合、上場企業と違って市場価値の算定が困難であり、また、将来の事業予想もなかなか立てづらいものです。コストアプローチは、3つのアプローチの中で最もわかりやすい計算方法であり、中小企業のM&Aにおいてよく用いられている手法です。

市場株価法やマルチプル法による"マーケットアプローチ"

<メリット>

  1. ①実際の株価を反映させるため客観性が高い
  2. ②直近の市場動向を反映したものになる

<デメリット>

  1. ①市場の影響により評価が変わる
  2. ②類似する会社がない場合は用いることが難しい

マーケットアプローチは、要素③「市場価値」をベースに価格を算出する手法です。
マーケットアプローチで価格を算出する場合に、最も使われる計算方法が、「類似会社比較法(マルチプル法)」です。

類似会社比較法では、まず、売り手側の企業と同一業種、かつ、取り扱う商品やサービスのほか、事業規模などが似ている上場企業をいくつかピックアップし、各企業の経営指標の倍率(EV/EBITDA)を算出します。
経営指標の倍率(EV/EBITDA)は、企業価値が、営業キャッシュフロー(税・金利控除前)の何倍かを示す指標で、計算式は以下の通り。

  • 経営指標の倍率(EV/EBITDA)=(株式時価総額+有利子負債-現預金)÷(当期利益+法人税等+支払利息+減価償却費)
  • または
  • 経営指標の倍率(EV/EBITDA)=(株式時価総額+有利子負債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)

売り手側のEBITDAに、類似企業の経営指標の倍率(EV/EBITDA)の平均をかけ、その値から純有利子負債を差し引いたものが、類似会社比較法(マルチプル法)で算出される価格となります。

価格を求める計算式は、以下の通り。

  • 価格=(売り手側のEBITDA×類似企業のEV/EBITDA)+(現預金-有利子負債-少数株主持分)

類似会社比較法(マルチプル法)では、類似企業の選定が重要。価格の妥当性に関わるため、なるべく多くの要素が似ている企業を複数ピックアップするようにしましょう。

配当還元法や収益還元法、DCF法による"インカムアプローチ"

<メリット>

  1. ①将来性やシナジー効果も考慮している
  2. ②会社固有の性質も評価に反映できる

<デメリット>

  1. ①会社の将来的な収益が予測できないと適用できない
  2. ②主観的になりやすい

インカムアプローチは、要素②「M&A後に見込まれる利益」のうちの将来的に期待できる利益と、リスクを考慮して、価格を算出する手法です。
インカムアプローチで価格を算出する場合に、最も使われる計算方法が、「DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法」です。

DCF法では、まず、将来見通せる範囲までの期間で、毎年発生するフリーキャッシュフローの額と、割引率を設定します。割引率は、ハイリスクなM&Aの場合は高くなり、ローリスクなM&Aの場合は低くなります。
次に、設定したフリーキャッシュフローを、割引率を使って現在の価格に割り戻し、事業価値を求めます。

事業価値を求める計算式は、以下の通り。

  • 事業価値={FCF÷(1+割引率)1}+{FCF÷(1+割引率)2}+{FCF÷(1+割引率)3}+{FCF÷(1+割引率)4}+{FCF÷(1+割引率)5}+…
  • ※ )と}の間の数字は、指数です。

求めた事業価値から、企業価値を算出し、そこから純有利子負債を差し引いたものが、DCF法で算出される価格となります。

価格を求める計算式は、以下の通り。

  • 価格=(事業価値+非事業用資産)-純有利子負債

譲渡価格算定における留意事項

ここまでご紹介してきた3つの計算方法は、確かに、理論上の譲渡適正額(買収適正額)を算出する方法なのですが、それぞれ、異なる要素を考慮して計算しているため、同じ企業なのに、価格に倍近くの差が出てしまうこともあります。

また、売り手側と買い手側で、そもそも立場が異なりますので、双方が提示する価格に大きな差が出るのは、M&Aではよくあることです。売り手側は会社への愛着や思い入れが反映されることで価格を高めに見積もってしまう傾向にある一方、買い手側は投資効率やリスクを考慮することで価格を低めに見積もってしまう傾向にあります。
こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、最終的な価格は、買い手側が提示した金額と売り手側が同意した金額、つまり、交渉を踏まえて双方が合意した金額で決まるのです。

しかし、円滑なM&Aを実現するために、「適正価格」を知り、目線感を持っておくことは極めて重要です。中小企業のM&Aでは、この「適正価格」として、「時価純資産法+営業権(3年)」を採用する場合が多いです。

【売り手側】譲渡価格を高くするために

譲渡価格を少しでも高くするためには、まず、自社への理解を深めるとともに、自社に魅力を感じてもらえるよう、買い手側に対する見せ方を工夫しましょう。
自社を一番高く評価してくれるのは、どんな企業でしょうか?そして、その企業が欲しいものは、価値を感じるものは?と考えていきます。
あとは、導き出された買い手側の需要について、提案書の中に、正確、かつ、具体的な情報をしっかりと記載するのです。

また、買い手側に競争相手を意識させるのも有効。買い手候補先を多く募ることができれば、オークション形式にして、候補者同士で競わせることが可能となります。
買い手候補先に対して、「いくらまで出せますか?」と質問することで、競合他社に負けてしまうかもという焦りを感じさせることができ、譲渡価格を引き上げることに繋がります。

【買い手側】買収価格を安く抑えたい…交渉は可能?

買収価格を少しでも安くするための交渉自体は可能ですが、あまりおすすめできません。
仮に、交渉の結果、想定よりも低い金額でM&Aを成立させることができたとしても、値引き交渉が良くない印象として記憶に残ってしまうと、事業の引き継ぎや残った社員のやる気などに悪影響を及ぼすことがあるからです。
確かに、買収価格を安く抑えたい気持ちは分かりますが、買収後のことを考えると、そこにこだわりすぎない方が良いでしょう。

M&Aの仲介手数料について

M&Aを行う場合は、基本的に、M&A仲介会社に依頼をするため、手数料の支払いが必要になります。
仲介手数料は、成功報酬ベースが一般的。初期相談料や着手金の有無は、M&A仲介会社によって異なります。
弊社「信金キャピタル」の仲介手数料も、成功報酬ベースの標準的な報酬体系です。
売り手側、買い手側ともに、初期相談は「無料」。仲介契約(アドバイザリー契約)を締結した段階で、役務にかかる費用を着手金としていただきますが、手数料の大半は、M&Aが成約した場合に成功報酬という形でお支払いしていただきます。

まとめ

M&Aの価格について解説していきました。M&Aに価格相場はありませんが、価格を決めるための要素が複数存在し、価格の算出には、各要素を踏まえた3つのアプローチ方法があるとお伝えしました。

  • ・コストアプローチ
  • ・マーケットアプローチ
  • ・インカムアプローチ

実際はご紹介した以外にも様々な要素を勘案しながら価格を算出します。

既にお伝えした通り、中小企業のM&Aにおいて、価格の基準となる相場というものは存在せず、最終的な価格は、買い手側と売り手側の双方が合意した金額で決まります。

両者の間で条件が折り合わず、破談となってしまうことも珍しくないため、円滑な交渉を進めるためにも、M&A仲介会社に依頼することをおすすめします。
弊社「信金キャピタル」では、費用無料の個別相談を受け付けておりますので、お気軽にお申し込みください。

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