「自社製品にもっと日の目を見て欲しい。」という想いを実現
~成長戦略としての前向きなM&Aが広がることで経済の活性化を~
【写真】
(左)譲渡企業:㈱クドー機械開発・宮藤康幸様
(右)譲受企業:ニューロング工業㈱・長保行様
- 譲渡企業
- 株式会社クドー機械開発
- 業種
- 機械製造業
- 所在地
- 東京都足立区
- 譲渡理由
- 自社に足りない経営資源の補完
- 譲受企業
- ニューロング工業株式会社
- 業種
- 機械製造業
- 所在地
- 東京都葛飾区
- 買収理由
- 事業拡大
㈱クドー機械開発・宮藤氏に
インタビュー
㈱クドー機械開発は、段ボール等の加工機械を製造・販売しており、1988年に発売した同社のヒット製品「カンタン」は国内外に数多くの納入実績を有しています。
同社の代表取締役を務めていた宮藤康幸氏は、「自社製品にもっと日の目を見て欲しい。」という想いから、ニューロング工業㈱に事業を託しました。
今回、本件M&Aについて、宮藤氏にお話を伺いました。
ご自身が会社を引き継ぐまでの経緯について教えてください
クドー機械開発は、私の父が1965年に有限会社として設立しました。
私が2歳くらいの頃になります。当時、実家の1階が工場という造りでしたので、幼い頃から仕事場を見ていましたし、時々手伝いもしていました。
ただ、私自身、会社を引き継ぐつもりはありませんでした。
父とは喧嘩ばっかりしていましたから(笑)
そのため、就職活動では家業と全く関係のない仕事をしようと思い、銀行に入りました。
そこから約6年間、銀行員として働いていたのですが、やがてバブルが弾けました。
弊社にもバブルの影響があり、また、母の体調不良も重なって、父から「大変だからちょっと手伝ってくれ。」と頼まれました。
ただ、私には銀行員としての経験があり、いわゆる同族経営の辛さや難しさを目の当たりにしていました。
父と相談し、私の家族や兄弟は一切経営に関わらせないという条件を付けた上で、銀行を退職し、父を手伝うことにしました。
その後、10数年して父が他界したため、私が会社を引き継ぎました。
会社を譲渡しようと思ったきっかけについて教えてください
父が亡くなった後、経理を担当していた母も会社から退きました。
私が経営の全てを一人で担うことになったのですが、やがて負担が増えてきて、55歳になった時に、このまま自分一人でやっていくには限界があると感じました。
もしも自分の身に何かあった時、奥さんだけでなく、会社の従業員やお客様にも迷惑をかけてしまいますしね。
また、私には息子がいますが、彼の人生を縛りたくなかったし、余計なプレッシャーもかけたくなかったですから。
おぼろげな悩みでしたが、青木信用金庫さんの渉外担当Yさんから、「宮藤社長、10年後のことを一緒に考えませんか。」と言っていただき、東京都の無料コンサルティングの提案を受けました。
Yさんから、タイミングよく背中を押された気がしましたね。
そのコンサルティングを通じて、M&Aを活用した事業承継という方法があることを知ったのです。
この方法であれば、自社の製品を残すこともできるし、譲受企業によって会社をさらに発展・拡大させることもできます。
私としては、製品、従業員、お客様が継続されるのであれば、自分自身がどうなろうが別に構わないと思っていましたので、M&Aという方向で進めることにしました。
ただ、私も従業員も自社のオリジナル製品には誇りを持っていましたので、会社を譲渡するにしても、財務内容だけではなく、自社の事業そのものを評価して欲しいという願いがありました。
具体的な検討を進めていくにあたり、東京都よろず支援拠点より「自社をアピールするためのツールとして事業計画書を作成しましょう。」というアドバイスを受けました。
実際に作成してみると、自社のどこが強みで、何が不足しているのかが分かり、事業を見直すきっかけになりました。
一方で、自社の事業をしっかりと評価してくれた上で、強みを伸ばし、足りない経営資源を補完してくれるお相手が、そう簡単に見つかるとは正直思っていませんでした。
ただ、私もまだ55歳でしたから、すぐにお相手が見つかなくてもいい、とりあえずチャレンジしてみようと決心しました。
何事もやってみないと分からないですからね。
そこで、青木信用金庫さんから信金キャピタルさんをご紹介いただいたわけです。
譲渡を検討するにあたり重視したポイントについて教えてください
私自身として最も重要なことは、約50年続いたこの会社を残すことでした。
さらに言えば、「自社製品にもっと日の目を見て欲しい。」という想いがありました。
そのため、相手探しでは、自社に足りない経営資源を補完できるかということはもちろんですが、自社の事業とのシナジー効果が期待できるかという視点を重視しました。
具体的には、相手企業の製品ラインナップに自社の製品を加えることが、その企業の事業ポートフォリオの拡充に繋がるかどうか、といったことをイメージしました。
信金キャピタルさんのコンサルタントMさんには、36社の候補先リストを作っていただきましたが、インターネットで候補先の事業内容を調べ、私のイメージに合致しない先は、候補からどんどん外していきました。
リストを作ってくださったMさんは、気分が良くなかったかもしれませんね(笑)
最終的には、絞り込んだ候補先2社とお会いすることにしました。
そのうちの1社で、製袋機械の製造を行うニューロング工業さんは規模が大きく、広い販売網を有する会社で、資金力・営業力・技術力など、自社にない経営資源を有していました。
トップ面談では、包装事業を網羅したいというご方針や「箱(段ボール)」を包装に関連する一製品としてラインナップに加えたいというお考えがあることが分かり、また、事業エリアなどでもシナジーが期待できると感じました。
まさに私のイメージに合致する会社で、面談でも同社の社長様と意気投合し、幸運にも同社に事業を託すことができました。
今後は、同社が持つ東南アジアなどの海外販路を活かして、自社の製品が広がればと思っています。
また、ありがたいことに、同社からは今後も継続して働くことを条件として提示していただきましたので、同社の事業パートナーとして、手を携えながらこの会社を発展させていきたいと思っています。
同じ立場の経営者の方々へアドバイスをお願いします
経営者であれば誰しもが、会社の譲渡には抵抗感があると思います。私は、父が作った会社なので2代目ですが、3代目、4代目ともなると、ご先祖様に顔向けできないという方もいらっしゃるでしょう。世間の目もありますからね。
正直に言うと、私も全く抵抗がなかったわけではありませんし、今でも多少の引っかかりはあります。
しかし、結局は自分が何をしたいのかということが重要です。
私は、「会社を経営している以上はこの会社を残したい。」「自社製品にもっと日の目を見て欲しい。」という想いを強く持っていましたので、その想いを叶える手段としてM&Aを選んだわけです。
後継者がいない場合はもちろん、仮に後継者がいたとしても将来的に会社が立ち行かなる可能性はあります。
その場合、廃業せざるを得ず、今まで続いてきたことが無になるわけですよね。
それを未然に防ぐ、つまり、会社の持続可能性を高める手段として、M&Aは有効であると思います。
弊社もM&Aを通じて、より規模の大きい会社のグループに加わることで持続可能性を高めることができたと感じていますし、私が一人でやっていた時よりも会社が無くなるリスクは減ったわけですから、従業員も理解してくれました。
また、私が継続して働くということを伝えると、従業員の皆さんは非常に安心していました。私自身、M&Aを実施して良かったと思っています。ちなみに、奥さんもこんな良い条件は無いと言ってくれました。
日本では、後継者がいなかったり、経営が悪化したりした時の手段としてM&Aを選ぶケースが多いですから、どうしてもM&Aに対してマイナスイメージがあるようです。
しかし、極論かもしれませんが、私は「M&Aで会社を譲渡すること」と「会社を上場させること」は、株式を売却するという点で同じものだと思っています。
特定の企業なのか、不特定多数の投資家なのかという相手方の違いはありますけども、会社の価値を評価してもらった上で、株式を購入してもらうことに変わりはありません。
それにもかかわらず、M&Aで会社を譲渡したと言うと、お金が苦しくなって売ったのではないかというイメージを持たれる一方で、会社を上場させたと言うと、立派だという印象になりますよね。
会社を投資対象として評価してもらう、会社に可能性を感じてもらうという視点でM&Aを考えれば、もっと前向きに捉えられるのではないかと思います。
もちろん、M&Aで会社を譲渡するにあたり、自分の考えを受け入れてくれて、かつ、自社の事業を評価してくれるお相手を見つけるということは簡単なことではありません。
正直、私も今回のM&Aがこんなにトントン拍子で進むとは思っていませんでしたので、非常に幸運だったと思います。
しかし、そういうお相手と巡り合うかどうかは、やってみないことには分からないですよね。
ですから、まずは挑戦してみること、その上で自社のアピールポイントや買収によるメリットをイメージし、お相手に伝えることが大事だと思います。
日本の会社は99%が中小企業ですから、今回のような、譲受企業のリソースを活用して自社を発展させるという「成長戦略としての前向きなM&A」が広がることで、経済の活性化にもつながっていくのではないでしょうか。
担当コンサルタントからのコメント
宮藤社長のように、早めに会社譲渡のための準備を行うことで、譲受候補先と対等な折衝が可能となります。宮藤社長が候補先を選別できたのも、早めの着手があったからこそです。
私自身、ご相談を受けた社長様が会社を譲渡しようという決断が遅れてしまい、候補先を選ぶ余裕もなく、悪い条件で譲渡せざるを得ない…という事例を複数経験しているので、宮藤社長のM&Aに対する前向きな考え方とご対応は意義深いものだと思います。
また、今回のインタビューを通じて、「会社を譲渡することは上場するくらい素晴らしいことだ。」という捉え方が、少しでも広く浸透することを願います。